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~ 不確実な時代に、確かな基軸をもつ経営をおこなうために ~

論理を超える思考法2019年02月26日 11:46

以前の記事で、論理思考には限界があることを説明した。ひとつの論理体系は公理系(もっとも基本となる前提)から導き出されるため、異なる公理系から推論された結論は別世界にあり、元の公理系から行き着くことは不可能なのだった。ビジネスにおいても同様であり、大前提となる「常識」から論理的に推論された結論では(別世界に属する)イノベーションは起こせない。逆に言えば、イノベーションを起こそうとするなら、何らかの常識を捨てる必要がある。

19世紀の頃、男性が髭を剃ろうとすれば、ナイフ状の剃刀(ストレートエッジ剃刀)しか手段がなかった。刃物だから使うにつれ切れ味は劣化し、高価なキメ細かい砥石で研がなければならない。そのため多くの人は理髪店で髪を剃ってもらうのがふつうだった。20世紀初頭にイノベーションを起こしたのはジレット氏だ。「刃物は砥がなければならない」という常識を捨て「刃だけ交換する」替刃交換式剃刀を開発したのだ(現代ではさらにカートリッジ型へと進化している)。これにより切れ味が悪くなったら(研ぐのではなく)切れ味のいい新しい替刃に交換すればよくなった。男性は家で髭を剃ることがふつうになった。

同じ頃、自動車製造では(戸建住宅のように)車を据え置いて、工程ごとに工員たちが入れ替わり作業していた方式を、現在のようなライン製造に変えたのはフォード氏だ。「車を据え置いて、人が移動する」方式から「人は移動せず、車が移動する」方式への大転換だった。もちろん背景には大量生産への対応がある。しかし以前の常識にとらわれていれば、もっと効率よくと作業手順などを見直すに留まっていただろう。

物販業において「有償で仕入れた商品を販売すれば、対価を頂戴する」ことは当たり前として受け止められているだろう。この常識を捨てたのが、かつて(株)光通信を創業した重田氏だった。規制緩和によりPHS電話が解禁されたときのことだ。彼は有償で仕入れたPHSを無償で提供し通話契約を取っていった。競合他社はとうぜん有償だったので、光通信の一人勝ち状態といっても過言ではない(ベンチャー企業が一気に東証二部、一部へと駆け上った)。同社の売上高はほぼゼロで、多額の売上原価があるため、売上総利益はとんでもない赤なのだ。ところが同社は、一方で第二電電と呼ばれる通信会社とも契約していた。通話契約を結ぶたびに手数料が同社に落ちる仕組みだ。同社の損益計算書は、大赤字の売上総利益にもかかわらず、それを遥かに上回る受取手数料で、多額の営業利益を叩き出していた。やがて同社は、親の許可なく高校生に通話契約させたことが社会問題化し、このビジネスモデルは終焉した。それでも無料ないし低価格で販売し、継続取引の中で初期損失を取り戻し利益確保するというビジネスモデルは、現在いたるところで見いだすことができる。

このように「常識」「既成知識」(正命題)に対して『ほんとにそうなのか』『なぜそうなのか』『◯◯ではいけないのか』(反命題)などと問いかけ、その葛藤の中から新しい知見(合命題)を得る思考法を弁証法思考という。考えてもみれば、多くの事業は成長経済を前提として、その方法を開発してきた。さまざまな社会構造変化が起きつつある現代は、その事業方法を見直す時期なのだ。そのためには弁証法思考が不可欠だ。

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