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~ 不確実な時代に、確かな基軸をもつ経営をおこなうために ~

岡山フォーラム総括2019年07月09日 11:19

  日本商工会議所主催『第8回商工会議所経営指導員全国研修会(支援力向上全国フォーラム@岡山)』のコーディネータおよび講師を無事に終えた。第1回の京都フォーラムでは専門家として一枠講演しただけだったが、第3回久留米、第5回金沢、第6回熊本、第7回名古屋および今回については、そのときの問題意識に対応して企画段階から関わらせてもらっている。
  事業費決定が遅れているためか、今回の参加者は例年に比して若干少なかったが、それでも北海道から鹿児島県まで170名ほどが岡山に集った。3年前の金沢では、かなり厳しいことを言わざるを得なかったが、それ以降は小規模企業経営支援に対して意欲と熱意ある参加者が多くなっているように感じられる。
  今回のパートナーは、高知商工会議所出身で経営コンサルタントとして活躍している茂井康宏さん(中小企業診断士)。第5回金沢フォーラムでパネラーとしてご登壇いただいた以来、はじめて仕事をご一緒した。

《意図》
  今回のテーマは「伴走型支援における事業者のフォローアップ」。近年は持続化補助金があるため事業者の経営計画策定支援はそこそこ行われているが、策定後の計画実施支援は全国レベルできわめて弱いのが実情である。また持続化補助金は販路開拓という経営課題にしか対応されないため、販路開拓以外の経営課題を抱える事業者に対しては十分な支援が行われているとは言い難い。とくに本年度の中小企業白書によれば、債務超過である中小企業が1/3ほどもあると指摘されているが、商工会議所の行なっている金融支援はマル経による借入支援がほとんどあることも憂慮される。
  これらの要因を分析すると以下の3点に集約される。①伴走型支援に理解が不十分であること(事業者からの要望に対して解決策を講じるのみで、潜在的な経営問題に目を向けていない)、②資質不足、③標準的な方法論を持っていないこと、の3点である。
  そこで今回は、最上流工程(伴走型支援対象事業者の発掘)と下流工程(計画策定後の実施支援)に対して、全国の商工会議所として標準的方法論を確立することを目的とした。

《先進事例発表およびパネルディスカッション》
  鎌倉商工会議所における持続化補助金の高い採択率(申請数も多い)の背景には、熱意や能力とともに、経営指導員は経営支援以外の業務をさせない(したがって残業もなし)というマネジメント体制があるという発言には、参加していた多くの方々を驚かせたようである。しかし、これこそが本来の姿であって、それを具現している商工会議所があるということは心強い。
  土岐商工会議所のピンポイントではあるが着実な成果を生み出す手法発表は、伴走型支援の原型として理解されよう。経営支援とは、経営計画策定や補助金採択が目的なのではなく、支援対象事業所に成果を出すことこそが目的であると、あらためて確認された。

《グループディスカッション》
  以下の4点についてグループディスカッションおよびポスター発表をしてもらい、標準的方法論の確立を目指して講師からコメントした。
【課題1】  伴走型支援の現状認識と共有化  〜  伴走型支援の標準ステップを理解してもらい、弱い部分の特定とその理由を構造化してもらった。
【課題2】  伴走型支援対象事業所の発掘手法  〜  販路開拓以外の経営課題を抱える事業者をどのように見出すかについて検討してもらった。
【課題3】  計画実施支援のイメージづくりと、その共有化  〜  計画実施支援として「何を」「どのように」すればいいのかについて、具体的なイメージを図示してもらった。
【課題4】  計画実施支援をおこなうための準備  〜  計画実施支援を実施する準備として「何を」用意すればいいのかについて検討してもらった。


  以上の検討から導かれた結論は次のようである。
①  支援対象事業所を効率よく発掘するためには、来所機会を最大限に活用し、簡単な経営分析を行なって経営問題と症状の重さとから優先度を決定する。具体的には次のようなケースが考えられる:持続化補助金申請希望者に対して簡易なキャッシュフロー分析を行い、必要があれば販路開拓とともにキャッシュフロー改善の支援を行う。セミナー参加者に対して個別相談を行い、経営問題を特定し必要な支援を行う、など
②  計画実施支援とは、進捗管理および3ヶ月程度先の見通しとアクション管理の2点が本質的である。進捗を管理するためには、例えば年次売上目標を月次売上計画に落とし込む等の進捗管理指標の策定が必要となる(進捗管理指標の設定と策定法については、8月下旬に実施される日本商工会議所テーマ別研修にて実施する)。また小規模事業者にあっては業務に日々追われ、アクションが後手後手に回る傾向にある。そこで経営指導員がペースメーカーとして先手先手を打てるようアクション管理していくのも、伴走型支援の本質である。

《所感》
  冒頭にも述べたが、経営支援に対する参加者の熱意や意欲は、近年格段に向上しているのを感じた。今年はとくに具体論まで扱ったため、参加者各位は同じ姿をイメージできたのではないかと思う。しかし昨年の名古屋フォーラム総括でも述べたが、経営支援に必須である構造化など高度な思考様式に弱点が見出された(これについては講師2人の共通認識である)。意欲・熱意があり、具体的方法論が確立されたならば、この思考様式が次のボトルネックとなる可能性が高い。これについては近い将来に何らかの形で研修する必要があろう。