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~ 不確実な時代に、確かな基軸をもつ経営をおこなうために ~

もっとコンテクスト(文脈)を!2016年08月20日 19:05

経営活動には、さまざまな局面でコミュニケーションが顔を出す。顧客との接触局面では販売だけではなく顧客ニーズを汲み取らなければならない。取引先とはうまく交渉しなければならない。社内に戻れば、人材を上手く活用しなければならない。すべてコミュニケーションだ。

にもかかわらず(とくにアメリカ型の)経営論では、戦略やマネジメントはあっても「コミュニケーション」という分野が見当たらない。せいぜい行動科学の中に見出せる程度だ。どんなにデジタル技術が進歩しようとも、経営活動は人と人との関係性に基づくものであるから、もっとコミュニケーションが経営の中核に据えられるべきだ。

いつものように思考実験をしてみよう。
登場人物は室内で打合せをしていたAさんとBさんの二人。雨が降ってきたことに気付いたAさんが、たまたま傍らにいたBさんにそれを伝えるというシーンだ。

ところでAさんは、今朝家を出るときに天気がよかったので布団を干してきた。まさか雨になるとは思っていなかったAさん、雨が降ってきたことに気付くと、ちょっと驚き、次の瞬間に布団を干したまま外出していることを思い出して困ってしまう。だから困ったような表情で、こんな風に言うだろう。
『ありゃ、雨になっちゃったね。。。』

一方のBさんは花粉症で、このところの晴天続きで症状が重い。だからAさんの言葉を聞くとパッと表情が明るくなって、思わず弾んだ口調で
『え、ほんとですか。そりゃあいい。』

それを聞いたAさん、『おまえは人の不幸を喜んでいるのかっ!』となっても、おかしくない。たしかに「雨が降ってきた」という情報は伝わった。しかしコミュニケーションでは(たとえ意図しなくても)それ以上の情報が伝わっていることに注意したい。

少し整理してみよう。
伝えるべき情報は「雨が降ってきた」ということだった。これをコンテンツ情報の内容)という。しかしコミュニケーションにおいては、コンテンツは裸のまま外に出るわけではない。人にはそれぞれ異なる価値観や問題意識がある。雨が降ってきたという情報は、Aさんにとっては「困ったことが起きた」と認識されるし、Bさんにとっては「嬉しいことが起きた」と認識される。外に出てくるメッセージはコンテンツだけではなく、そのコンテンツにどのような意味づけがなされているかという衣をまとっているのだ。この「コンテンツの意味づけ」のことをコンテクスト(文脈)という。

Bさんの立場に立ってみよう。Aさんは困ったような表情だし、なにか心に引っかかりのある言葉遣いや口調だ。注意深く観察すれば、雨が降ってきたことでAさんには何か困ったことが起きて、どのように対処しようか悩んでいるようだということがわかるだろう。つまりAさんが言葉にした以上の、心の内面を推察することができる。だったら自分の花粉症が楽になるということは一先ず横に置いて『何か困ったことになってんですか?』と尋ねれば、Aさんは『いや、実はね・・・』と説明してくれるだろう。Aさんだって、最初から布団を干したままであるなんて説明するつもりはなかっただろう。それでも、このような会話を続ければぐいぐいとAさんの背後事情を理解することができる。

Aさんがお客さんだったら、Aさんが取引先の担当者だったら、Aさんが社員さんだったら・・・?

コミュニケーションを重視したって、コンテンツのやりとりだけなら意味はない。もっとコンテクストを重視すべきだ。そこにこそ意味ある新しい発見がある。