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『コンテクスト』というもの2018年05月20日 14:56

先に断っておくが、私はコミュニケーション学者でも言語学者でもない。ビジネスコンサルタントだ。本来はしかるべき研究者が明らかにしてくれればいいのだが、少なくともネット検索した限りでは適切な記述が見当たらなかった。とはいえビジネスの現場で重要なことだと考えているので、考察したものだ。

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A「今日の天気予報は快晴で、降水確率は0%だ。」
B「でも、ここまで来るときポツリポツリと雨粒が落ちてきた。」
よくある会話だ。ここで着目するのはBの発言。もちろん雨粒が落ちてきたという事実を言っているわけで、これが発言のコンテンツ(内容)である。しかし、この事実をBさんがどのような想いで言っているのか(つまりコンテンツの位置付け)は、状況によってさまざまである。この位置付けのことをコンテクスト(文脈)という。

Bさんは今朝、天気予報を信じて洗濯物を外に干したまま外出したとしよう。雨が降ってきても取り込んでくれる人もいないので、洗濯物はずぶ濡れになってしまうかもしれない。この状況では『雨粒が落ちてきた』という事実は、Bさんにとって、予想外のことが起こった、それにより自分にとって不都合な状況になりそうだ・・・という想いが込められる。だから(文字だけではわからないが)困ったような表情だったり、そういう声色だったりするだろう。このように『個人的状況に基づくコンテクスト』を状況コンテクストとでも言っておこう。

状況コンテクストは個人的状況に基づくから、他人にはわからない。それでも、コンテンツだけではなく、表情、声色や言葉遣い、仕草などさまざまな観察により『雨が降ることは、なにか不都合なのだろう』ということは推察できる。

次にBさんが、Aさんは知識豊富だし自信家だしちょっと苦手な存在だ、と思っていたとしよう。そのAさんが降水確率は0%だと言っているのに自分が逆らうようなことを言うのは気が引ける、でも雨粒が落ちてきたことを教えてあげたほうが親切だしなぁ、という想いで発言したとしよう。このときは、小声だったり自信なさそうな表情を浮かべているだろう。このように他者との関係性から生じるコンテクストを『人間関係コンテクスト』と言っておく。

人間関係コンテクストは幅広い。何か理解できないことを聞いたときに、きっとみんなはわかっているのだろう、今さら恥ずかしくて聞けない、という場合には、無言(発言しない)というコンテンツに対して、あり種の人間関係コンテクストが付随していると思われる。この前提には、みんな(集団)の共通理解(あるいは共有する価値観)があるのだろう。

忖度という言葉も、本来は「相手の気持ちを推し量ること」のようだ。(それによる自己保身は別問題なので、今は考察の対象としない。) だから忖度というのは、人間関係コンテクストを意識することで、円滑なコミュニケーションを図ろうとする努力なのだ。ところが忖度を可能にするためには、共通の価値観や理解がなければならない。民族が異なれば価値観も異なる。異民族で会話をすると、人間関係コンテクストにギャップが生じても無理はない。興味深い記事がこちらにある。

冒頭の会話に戻ろう。Bさんは、天気予報だって外れる場合があるし、今日の雨粒はどのような要因で落ちてきたのかを考えてみたい、という想いで発言したのかもしれない。このときは、科学的な天気予報といえども完璧ではない、外れたなら予測できなかった何か要因があるはずだ、という位置付けで発言される。上記2つのコンテクストが『Aさんの発言内容とは関係なく自分の状況だけ』であったのに対し、今の場合は『Aさんの発言内容を受けている』点が大きく異なることに注意しよう。このようなコンテクストを論理コンテクストと言うことにしよう。

重要なことは、ひとつのコンテクストに限定されるわけではなく、種々のコンテクストが混在しているということだ。上記に掲げたのは、支配コンテクスト(もっとも比重の大きなコンテクスト)が何かという例だ。井戸端会議ならいざ知らず、ビジネスの場にあっては論理コンテクスト以外に意味をもつものはない。経験や知見が豊富な相手に対する言葉遣いなどは礼儀の問題であって、なにより論理コンテクストを意識しなければならない。

【追記】2018 / 05 / 31
ネーミングを次のように変更したほうがしっくりくるのではないだろうか。
状況コンテクスト ⇒ 個人的コンテクスト
人間関係コンテクスト ⇒ 関係性コンテクスト
論理コンテクストはそのままで。

なお関係性コンテクストは、自分と特定複数他者との関係性であったり、自分と帰属社会(不特定複数他者の集団)であったりする。会社などというのも帰属社会のひとつである。