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~ 不確実な時代に、確かな基軸をもつ経営をおこなうために ~

夏期にパンが売れないのは本当か?2018年05月19日 01:31

あるパン屋さんを支援していたときのこと。
「6月くらいから売上げが落ち始めて、10月くらいからまた伸び始めるんですよ。毎年そうだし、同業他社も同じようです。パン屋っていうのは、そういう商売なんです。暑くなってくるとニーズが減るんですかねぇ。」と社長さんはおっしゃる。しかし「はあ、そんなものですか」と簡単には引き下がらないのがコンサルタントというもの。現象的にはそうなのだろう。なにも社長さんが嘘を言ってとは思わない。それでも社長さんの発言は彼の『認識』に過ぎず、その認識が『事実』であるかどうかは別問題だ。

こういう場合、諦めて何もしないか、広告宣伝に頼りがちだが、どちらも正しくない。正しくは、『何が起こっているのか』を調査し、『打開策があるのか、ないのかを検討』することだ。

そこで、まず売上データを分析すると、客単価はほぼ変化しないが、客数が減少するという事実がわかった。客数は延べ人数だから、おそらく来店頻度が落ちているのだろう(仮説)。ここで『どうしたら来店を促進できるのか』と考えてはいけない考えるべきことは『なぜ来ないのか』である。

そのために『ニーズがあるのかどうか』を検討しなければならない。ニーズがなければ広告宣伝しても意味はない。従業員さんに
「6月になるとパンが嫌いになると思うか?」と尋ねると、冗談を言われたと思ったのか、笑いながら
「そんなこと、あるわけないじゃないですか」と答える。
「それじゃ、どうして買いに来ないんだ」と追い打ちをかければ、
困ったような表情で「なんでですかねぇ」。
しばらく禅問答のようなやり取りを続け、やっと辿り着いたのは、パンを嫌いになるわけではない、暑くなって食欲が落ちる時期に、喉越しのよくないパンを食べる気にはならないだろう、ということ。つまり、潜在ニーズはあるが、顕在化を妨げる要因があるということだ(仮説)。

次に『顕在化を妨げる要因をどのように除去するか』である。また従業員さんに尋ねる。
「食欲がないからといって、喉越しのいいソーメンばかり食べていたら体力が続かないね。食欲はないけれど何かガッツリ食べなければならないとき、みんな何を食べる?」
「焼き肉? ラーメン? あとは・・・」
「それも悪くはないけれど、ファミリーレストランはどうしてる?」
やっと出た。「カレーですか?」
カレーは魔法のメニューだ。食べる気がなくても、隣からカレーの匂いがしてくると、つい食べたくなる。
「カレーパン・フェアをやろうか。揚げカレーパンじゃないよ。とりあえず試作品をたくさん作ってよ」。

最後は『売るための仕組みづくり』だ。7月20日から8月末までの6週間フェア。もちろんカレーパンというだけで6週間も続けられるわけはない。週替わりで、いろいろなカレーパンを出していく。今週のカレーパンを気に入っても、来週には別なのに替わってしまう。気に入ったら今週中にもう一度来店してね、という効果と、来週にはどんなカレーパンが出てくるのだろうという期待感で来店する、という2つの効果を狙った。とくに広告は出さなかったが、一ヶ月前から購入者にはチラシを袋に入れた。これは顧客がもつネットワークを利用しようという方法だ。つまり「口コミ効果」。

大成功でフェアを終えた。6月から8月の売上は、対前年比140%! この結果に一番驚いていたのはメインバンク。「どんな魔法を使ったんですか?」と真面目な顔をして聞くので、「魔法は使いません。ロジックを使っただけです」と真面目に答えた。

数年後の夏、どこかのパン屋さんが開発した「冷蔵庫で冷やして食べると美味しいメロンパン」が話題になり大ヒットしたというニュースを聞いた。ちゃんと考えている人はいるものだ。

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